戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


それらの距離わずか1メートルにしても、この2人に近づけないバリアが生じているようで、どこか別次元の出来事に思えた。



「ふっ…、すいせ、い…りがと」

ブルーのハンカチを受け取り、小さく泣き笑った彼女の姿はひどく美しくて。この気高さがなぜだか、はるか昔の兄に感じたものと酷似して見えた。



「いや、ひとまず部屋に行こうか」

「っ、」


「でも…、怜葉さんが、」

ここでようやくチラリと同時に向いた2つの心配そうな真っ黒な瞳のせいか、今さら訳もなく涙が出そうになる。



「あ、あの。先ほど申しました通り、もう失礼しますから…」

その虚しい涙を我慢したためなのか、カタカタ手が震えはじめたことに気づく。


2人に悟られてしまわないように、と急いで拳を握ればもう虚勢を張るだけだ。



「え、ちょっと…待って…っ」

「…あ、朱莉さん…、あの、」

だから踵を返してようやく逃げられると足を動かせば、私よりも小さな可愛らしい手と高らかな涙声で止められてしまった。



「ご、ごめんなさいね?そ、その、ええと…」

「あの、朱莉さん…、お気になさらないで下さい」

私が立ち止まったことですぐにその手を離したものの、こうして対峙する彼女は泣き顔までもが綺麗だから惨めさが余計に際立つ。



どこか躊躇いがちに何かを言い淀んでいるのだけど、その時間がこちらの立つ瀬をどんどん失わせていると察して欲しい。


美麗な人は何故これほど日常の立ち振る舞いでさえ美しく、映画のワンシーンを切り取ったように見えるのだろう?


それは子供の頃に一生手に入れられないのだと諦めた、天性のオーラだと分かるから更にキリリと胸を苦しめる。


どうして同じ年に生まれているのに…。ロボット男に愛される彼女と偽者の私はこれほど違うのか、とさらなる虚しさが募っていく。



残された逃げ道はもう逃げることだけの私を引き止めて、可愛く謝罪に興じるこの時間を残酷に思ってくれないの…?


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