戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


いやいや何が正しい、と文句のひとつくらい言いたくなり、固く瞑っていた目を開こうとしたその瞬間。――時すでに遅すぎた。


それさえ紡ぐことも叶わない私の唇は、目の前の男のゆるく温かい唇で覆われたから。


突拍子もなく落とされているキスに目を瞬かせれば、ますます女子力ゼロを露呈するとは分かる。


だが、なにこれ。貴方の方が新手の罰ゲームを命令されていたのですか――いやいや、この男にそれをするチャレンジャーはゼロだし。



そんなどうでも良いことはさておき。この状況で悪いのは当然、ハレー彗星の方ですよね…?



「やっ、ちょ…、んっ」

あまりのパニックであちらこちらへ飛んでいた思考がようやく集約すれば、なおも続くキスが一大事だと結論づく。



不逞はダメだとの思いで身を捩じらせたが、顎を捉えた指先の力がさらに強まってしまう。


次第に吐息に熱が籠り、思考回路を一気に失わせてゆくその感触が憎らしい…。


「ふ…、んっ、」

徐々に呼吸さえ疎かにさせるから、悲しくもオンナの声を出してしまった自身に羞恥が走った。



意識などという以前に、この酷い男にはれっきとした本命の彼女がいる――つまりは、たとえ無意味であってもキスなどもっての外。



友人には不倫をしている子がいたり、または“一夜限り”を楽しむためにフリーを装っている子もいる。


もちろん個人的な価値観の問題と思うけど…、私は昔からそれを許せないタイプだ。


彼氏に浮気をされた時点で別れてきたし、まして相手のいる人を恋愛対象には考えられなかった。


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