戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


だけど私だって生まれてからずっと、ねじ曲がった性格をしていた訳ではない。


これほど可愛げない女でもなければ、物事に対して見返りや対価を求める人間では絶対になかった。



“オマエへ費やした時間がムダだと分かったよ。才能の無いヤツに教えてもな…”


その言葉とともに、部屋に置き去りにされたアノ日。

やはり抱いていた夢が自分では厳しいのだと、諦めることより何より。
誰よりも尊敬していた人から、簡単に存在意義をゼロにされたアノ日。



不出来なのだと幼いながら十分に分かっていたから、毎日脇目も振らずに必死で夢のために明け暮れていたのに。


それを不注意で出来なくなった私の姿を見るなり、心配よりもまず呆れた表情を浮かべられて納得した。


まさに不器用な私を通り越えて、“会えない誰か”を見ていたその人の眼がいまだに忘れられない。


ああ…顔さえも知らない人と比べられると、なけなしのプライドまでズタズタにされるのだと――



たとえば見た目には完治して、何の傷を負っていなくても。
心に出来てしまった傷は、いくつになっても消える事が無い。


ふとした瞬間、思い出すことだってある。自分が普通であれば良かった、と境遇に嫌気がさすことだってあった。


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