戸惑いの姫君と貴公子は、オフィスがお好き?【改訂版】


だけども、そんな私の家名を必要とせずとも、ロボット男は既にこの業界はおろか経済界にも知られている長者。


まして彼氏に騙された挙句に借金も残った一般人の私など、言ってしまえばお荷物でしかない。


何よりも加地くんが今日言っていた通り、この男を欲している女性は星の数ほど居るのは事実。


また容姿や学歴にしても、どれもが平均に位置する私より、この男の出会う女性の方が絶対に優れている。


どれを差し引きしてみても、私なんかの小さな存在では“互いの利潤”を埋めるに足らないのだ。


その意味を込めた疑問をぶちまけてみたものの、この男は口元をほんの微か緩めただけに終わった。


カチャリ…、その静かな音とともに、食器へとカトラリーを置いた彼の反応がとても怖い。


さしずめ距離を置きたくなる感覚に囚われるのは、この男の真っ直ぐな瞳のせいだ。



「見込んだ通り、やはり賢いですね」

「…賢くないから、周りに見放されるんです」

どういった筋道でその考えに辿り着くのかソチラも尋ねたいのだが、一笑に伏すことにしておいた。



「…彼の借金が実家にバレていれば、間違いなく連れ戻されていたでしょうし。
そもそも歌舞伎役者じゃなくなった時に、もう家とは断絶したつもりでいます。今となっては、ただのしがないOLですよ?」


そう。いわば問題児である私の実家は、梨園の世界でソレなりに名を馳せる有名歌舞伎一門なのだ。


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