触れることもできない君に、接吻を
ふと我に返ると、驚いたような、困惑したような、怯えたような表情で由梨がこちらを見ていた。
俺はなんてことをしてしまったんだろうと後悔の感情に駆られ、鞄を肩にかけ、全速力で階段を降った。
熱を吹き飛ばすかのように、驚異的なスピードで。

そして百三十五段を駆け降りると、息切れをしながら一段に座り込んだ。
動悸がして、冷や汗が出る。
俺はおもむろに髪をくしゃくしゃと掻き、目の前の畑に突っ立っている案山子を意味なく睨んでみせた。

「なんで泣いている、か」

そして由梨の質問を繰り返した。
いつのまにか空は赤く染まっている。

「人って残酷なんだよなぁ」

俺は空に向かって、呟いた。
当たり前だが返事は返ってこない。

だが、それが逆に心地よかった。
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