触れることもできない君に、接吻を
「そうだ。まだ名前聞いてなかったよね。なんて言うの?」

俺が別れの挨拶をしようと口を開くと、それよりも早くに彼女が俺に言った。
そういうえばそうだ。
会ってもう二日も経つのに、まだ名前を教えていなかった。

「俺の名前は、真人。久本真人」
「よろしくね、真人くん!」

俺がそう言うと、由梨が明るくそう言った。
だがすぐに俯いてしまう。
これでは帰りたいにも帰れない。

俺は由梨の顔を覗き込んだ。
今にも泣きそうな、暗い顔をしている。
俺も問題を抱えているが、きっと由梨の抱えている問題の方が遥かに重いのだろう。
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