触れることもできない君に、接吻を
俺は溜め息をつき、お腹に手を当てた。
ぐう、と情けない音が鳴る。
自分の分の給食を取ってこようと席を立った。

だがその行動をとめるかのように、俺の目の前に仁王立ちした裕大が現れた。
いつものようないやらしい笑みを浮かべている。
俺は本能的に危険を感じた。

「何だよ。裕大」
「もう給食ねえんだよ。みんなおかわりしちゃって」

裕大は馬鹿にするような口調でそう言った。
口元にはセールスマンのようなねちっこい笑み。

「それに、ずうっと眠ってた奴に給食が食えるとでも思ったか?」

今度はガキ大将の笑みと獲物を見る目に変わった。
ぞくり、と背筋が凍ったのが分かった。
こういう目をしているときの裕大が一番危ないと、俺はよく知っていたからだ。
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