美しいあの人
「頼むから。悪いようにはしないから答えてくれよ」
目の前に、松井さんの頭頂部が見える。
この人、以前はこんなに白髪は多くなかった。
ショルダーストラップにつけた携帯が震えて、あたしの肩は驚いて痙攣する。
店から慌てて出て来たのでマナーモードのままだった。
届いたメールを見て、あたしはため息をつく。
「エリが帰ってこないので原稿が進みません。早く帰ってきてほしい」
そうでしょうね祐治。
祐治はあたしがいないと小説が書けないのだものね。
小人さんがいないと、書いてもらえないものね。
ごめんね、小人さんは今日は遅くなりそうなの。
だけど大丈夫よ祐治。
寝て起きたらちゃんと小人さんは仕事をしていてくれるから。
だから安心して。
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