美しいあの人
おしゃれな人はあたしの前で立ち止まる。
なんだろう? 
彼女はきっちりとペンシルでラインをとったベージュ色の綺麗な唇を動かした。
他の住人の名前なんて聞かれても分からないから困ったな、と思ったが、
その唇はあたしの名前を呼んだ。
「エリさん、よね」
あたしは黙って頷いて、携帯を閉じてシャネルへしまう。
来るべきものが来たと思った。
彼女の名前など、聞かなくてもわかった。
なぜあたしの住まいを知っているのかも、どうでもよかった。
こんなおしゃれで美しい人とは思わなかった。
もちろんセンスがいいのだろうとは思っていたが、
実際に目の前にしてあたしは彼女に圧倒されていた。

おしゃれなだけでなく、自信のあるオーラがにじみ出ている。
あたしは無意識に敗北を感じている自分に気がついた。
美しい祐治と、小綺麗でセンスが良く美しい芙美子さん。
ただ派手なだけのあたしと並んでいるよりもずっと絵になるではないか
あたしは芙美子さんが話しだすのを待った。
エナメルピンクのピンヒールの足下が、心もとなかった。
彼女の足下を見たら、
おそらくフェラガモであろうパンプスにくるまれた形の良い足が、
しっかりと地面を踏みしめていた。
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