タイトル未定
 私が乗り込んだ新幹線は、品川を経ち東京・上野に停車をすると、大宮を経由して一気にスピードを増した。
 向かうは首都圏を抜け郊外、到着には今しばらく掛かるだろう。
(……嫌だな、この時間何をしてろっていうのよ)
 おもむろに仕事に関する資料を取り出そうとするが、思い返しその手を引っ込める。
 今更か……、心の奥で私は呟いた。
 東京本社での私の役目は、もうすでにない。
 商品企画部のメンバーだったのは過去の話だ。これからは販売部として、全く違う仕事をしていく事になる。
 彼とは全く別の……。
「……っ」
 思わず私は自分の唇を噛み締めた。
 嫌な事を、何故こうして思い出してしまったりするのだろう。
 要らないと思ったから――もういい、どうでも――と思ったから、私は全部捨ててきたつもりだった。
 東京の、あのちっぽけなデスクの中に……。
 なのにどうして思い出してしまうのか、私はやけに悔しくてやるせない気持ちでいっぱいだった。
 記憶はさらに遡りを始めていく。
 『捨ててきた』なんて、結局は表向きの嘘だったのかもしれない。
 私の心には、まだこんなにも強く、あの人の面影が残っていたのだから。

< 3 / 5 >

この作品をシェア

pagetop