大海の一滴

 渡辺さんの顔がほくほくする。
「やっぱり、教育者としてそういうことは、ちゃんと話すべきだと思います。じゃないと私達、安心して授業を受けられません。うちのママもホスト通いの先生って知ったら怒ると思います」

「そうですか、分かりました。渡辺さんが見たのは確かに先生ですが、隣にいたのはホストではなく、バーテンダーという職業の人です」

「バーテンダーって、カクテル作る人?」
 おずおず尋ねたのは、タケヒロ君。

「よく知っていますね。そうです。先生は大人なので時々バーという、沢山の種類のお酒が飲める場所でカクテルというお酒を飲みます。渡辺さんが見たのは、先生がクラブではなくバーに入っていくところです。そしてホストみたいな人というのは、そこのバーテンダーさんですね」

「な~んだ」
「バーならうちのママも、パパとたまに行くよ」

「うちも~」
 ざわざわざわ。

「でも、私見ました。先生がその人と腕を組んでいるところ!」
 ムキになった渡辺さんの薄い唇が鋭く尖る。

「学校で先生の私的な話をするのは適切ではないと思いますが、皆さんに誤解を与えるのはもっと良くないですね。そのバーテンダーは先生のお付き合いしている人です」
「彼氏ってこと?」
 目を輝かせたのはもちろんヒロ君。

「そのとおりです」
「な~んだ、つまんない。大人だったら付き合ってる人がいたって普通じゃん」



「人騒がせだよな」
「そうそう、この間もさ~」
「シッ」
「あ、やべ」
「でも、本当だよね」
「なんかちょっとやりすぎな気がしてきた」
「うん、あたしもそう思う」
 ざわざわざわざわ。





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