大海の一滴

「紅茶オッケー、お菓子良しっと。後は早瀬先生が来るだけだ」


(三者面談か)
 先生と言う響きに気が重くなる。
 優等生とは言えない学生時代のせいで、先生と聞くとどうもアレルギー反応が起こるらしい。

 が、残念ながら美絵子は検診でいない。


 生まれてくる我が子のためにも、ここは頑張るしかないだろう。


 と、考えながらも小さな溜息が漏れる。



「早瀬先生は美人よ~」
(……美人教師か)


 思わず期待してしまう自分。
その心を読んだのか、美和がニヤリと笑った。




 ……こんなことまで言えるようになったとは。


 そろそろ、結婚について、本当に心の準備をしなくてはならないのかもしれない。




 ピンポーン。


 マンション特有の模範的なチャイムが鳴る。



「来た~」
 ばたばたと音を立てて美和が玄関に向かって走って行った。


「転ぶぞ~」
 達之も立ち上がり美和の背中を追いかけた。



(やっぱり、まだまだ子供だな)
 はしゃぐ美和に少し安堵しながら、達之は顔の筋肉を引き締め、シャツの襟を直した。




< 234 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop