大海の一滴

 ギーコ、キィ、キッ、ギギー、キィ。
 オンボロブランコは、金切り声を上げた。全く雰囲気ぶち壊しである。

「お前が重いからだよ」
 もしこいつが喋れるとしたら、そう反論しているのかもしれない。
 でも所詮、子供の遊具でしかないのだ。

 私は握っていた手を少しずつずらして、ブランコに腕を絡める。そうしてから慎重にポケットに手を伸ばすと、ひたりとした感触が人差し指にぶつかった。

 ギーコ、キィ、ギーコ、キィ。
 相変わらずの騒音の中で、私はワタパッチを口に突っ込んだ。
パチパチッと、口の中の至る所で輪ゴムを飛ばした時みたいな音がした。

『やみつきになる食感! グレープ味』
 テラテラでキラキラの袋に書いてある文字を色っぽいアナウンサー風に読んでみる。

 ギーコ、キィ。ギーコ、キィ。
ギーコ、キィ。ギーコ、キィ、キィ、キ……。

「全然ダメだ」
 ぶらんこを降りて柵を跨ぐ。

 誰もいないけど肩を落とす仕草をした。

 ダメな時にはそうやるものなのだ。

暗くなって来たしもう行かなくちゃ。

 私はトボトボ歩き出した。
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