大海の一滴

 どうせ出てはくれないだろうが、留守電に家庭訪問の件を入れておけば、何らかのアクションがあるに違いない。

 美絵子は世間体を気にするタイプだ。

 きっと家庭訪問に父親が出るのを嫌う。

 それに流石に不安も募り始めている。

 美絵子がプチ家出を初めてから、もう一月程経つのだ。


(まさか、このまま帰ってこないつもりじゃ)



 いや、あまりに時間が経ちすぎてきっと帰りにくいのだ。


 そうだ。そうに違いない。


 美絵子自身、帰る口実を欲しがっているのだ。

 それならオレが作ってやればいい。

 そう考えると、達之が美絵子に電話することは夫としての重大な責務のように思え、こうしちゃいられない、と達之は携帯を手に寝室へ向かった。

 ドアに鍵をかけたのは、日曜の昼下がり、リビングで遊んでいる娘達に内容を聞かれないよう配慮してのことだ。

 幼い娘達には、大人の思慮深さというものがまだ理解出来ない。


 達之が謝る姿を見て色々誤解されては面倒だ。



 注意深く部屋の奥まで進んでから、達之はブラックパールの薄型携帯をパカッと開いた。




 トゥルルルルル。


(あれ?)



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