ルーズ・ショット ―ラスト6ヶ月の群像―
 しばらく天井を見つめていた洋二は、スタンドからギターを手にとった。
もちろんアンプはつながっていない。
聞きなれたあの金属の弦が鳴る音が、
ミュージシャンのポスターだらけの壁に響く。

これだけポスターがめちゃくちゃに貼ってあるのに、
防音効果はまったくない。
洋二の鼻歌が、ギーンという響きに乗った。
開けっ放しの窓から入る風が、少し冷たく薄い水色のカーテンを揺らした。


 撮影をするライブ当日。
ミツは専門学校の友人数人と、
学校から借りられるだけ貸して欲しいと交渉し、
渋々貸してもらった3台のビデオカメラと三脚を担いで現れた。

 セッティングのためにリハーサルからライブハウスに入らせてもらい、
特別に足場も組ませてもらった。
一緒に出演するバンドからは奇異の目で見られたり、
迷惑そうな視線を送るやつもいたが、ミツには届かなかった。

 フロアの一番後ろと下手のステージ近くに
二台のカメラはセッティングして、友人にまかせた。
曲ごとの撮影カットは学校で何度も打ち合わせをし、
残る一台は三脚は使わず、ミツが手持ちで撮ることになっていた。

学校の課題でビデオカメラを触ったことはあったが、
本格的にカットを決めて撮影していくのは
ミツにとって初めての体験だった。

学校からビデオカメラを借りたのが昨日。
ミツは家を出る直前までカメラの使い方を研究した。
三台のホワイトバランスを合わせて、
三脚で固定した二台はマニュアルでピントを合わせることにした。

ミツの担当するカメラは手持ちで被写体を追っていくため、
悔しいがオートフォーカス設定にすることにした
。今のミツにはそこまでする余裕はない。

フラワー・オブ・ライフのリハーサルの順番がやってきた。
撮影隊のリハーサルも兼ね、ミツたちはカメラを回した。


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