§魂呼びの桜§ 【平安編】
サノオトド
左大臣の姫に、女御(ニョウゴ)入内の宣旨(センジ)が下ったのは、夏が過ぎ涼しい風が吹き始めた頃だった。



早すぎるわ



そう愚痴を言ってみても詮無いこと。



もう覆(クツガエ)されることはない。


姫は生まれてすぐに、いずれ入内し国母となることが決められていたのだから。


父の権勢をより確かなものとするために。


政敵である右大臣(ウノオトド)に負けぬために。


姫は父の地盤固めのために入内する。


それが、貴族の姫としての務めだから……。





左近少将さまは、右大臣のご子息で…………。

妹姫は、すでに後宮に上がられ、主上(オカミ)の寵愛を受けておられる……。




そのようなことを思う度に、姫の心は千々に乱れるのだった。


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