§魂呼びの桜§ 【平安編】
藤壺中宮は、人知れず涙を流していた。
止める術すらわからぬほど、涙はあとからあとから溢れ出す。
少将があまりに美しいからか……。
その人の腕に抱かれることは、もう決して望むことなどできないからか……。
いずれにせよ、幸せゆえに流す涙でないことは、確かだった。
己の、運命を悲しむ涙。
女人としての絶頂にある人が、なぜそのように泣くのか。
その理由を知るのは、中宮その人しかいない。