あなた色に染まりたい
大きく深呼吸をしてから、目の前の大きな胸を軽く押して離れる。


蓮は心配そうに、あたしの顔を覗き込んできた。



「紗羽さん、何か見えたの?」


「……たぶん、幻覚。あの時の光景がそのまま……桜も咲いてた。大輝もいた。」


「そっか……紗羽さん、頑張ったな。」



そう言って、頭に軽くのせられた大きな手。


ゆっくりとやさしく撫でられると、心の奥底で、トクンと何かが動いた気がした。



「蓮、ありがとう。」



しばらくその場を動けなかったけれど、落ち着いてきたら、ちゃんと“大輝がいた場所”を直視できるようになった。



目を閉じるとあの光景が浮かんできたけど、不思議と涙は出てこなかった。



グリーンだからかな。



それとも…


蓮の胸の中にいるからかな。





帰り道、蓮もあたしも無言だった。



アパートに着くと、当たり前のように蓮もあたしの部屋へ入ってくる。



何も言わずに傍にいてくれるだけで安心する。





もし、今蓮がいなくなったら、あたしはどうなってしまうんだろう……



そう考えてしまうくらい、蓮はあたしの生活の一部になっていた――…


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