恋の魔法と甘い罠
だけど、あの噂はほんとだったんだ……と思うと同時に、和泉さんの言葉や、紗羽さんに対する態度や表情を思い出してみると、どこか違和感を感じる。


そう思ったら、もう喋らない方がいいとは思っているのに、また無意識に言葉がこぼれる。



「今は……」


「ん?」


「今はもう、好きじゃないんですか?」


「は……?」



あたしの言葉に、ぱっ、と目を見開きながらあたしの方を見た和泉さんだけれど、その瞳は動揺を表すようにゆらゆらと揺れていて。


やっぱり図星だったのかな。



「和泉さんが紗羽さんを見ているときは……凄くやさしい瞳をしているから」


「……」



目を見開いたまま黙りこんでしまった和泉さん。


でもすぐにその瞳は細められて、はぁーっ、と大きく息を吐いた。



「俺って……どうも顔や態度に出るらしいんだよな。……まあ、隠すつもりもねーけど」



そう言って唐揚げを口に運んで美味しそうに頬張る和泉さんを見て、届かない想いなのにこんな風に隠すことなく自分の気持ちを話せるなんて、凄くカッコイイと思った。


なのにあたしは……


慎也さんに口止めされていたのもあるけれど、付き合っていることすら誰にも話したことのない自分が――


凄く惨めに思えた。
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