ヘタレな彼氏と強気な彼女
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 キッチンからあがった悲鳴にあわてて飛んでいくと、一輝(かずき)がぶるぶる震えながら壁際に突っ立っていた。

「ちっ、千歳(ちとせ)~ゴッ、ゴッ、ゴッ……あっ、あれ!」

 赤いチェックのエプロンを握り締めて、必死で助けを求めている。

 身長だけは高いくせに、体を縮めて怯えている姿にいつもながらため息が出た。

「あーはいはい。あれね」

 もう見当がついた例のあれを倒すべく、スリッパを片手に取る私。

「だっ、だめだよお! そのスリッパせっかく買ったばっかりのお気に入りなのに……!」

「いいじゃん、それぐらいぱっぱと拭いて使えば」

「うわー絶対やだ! お願いだからそこの殺虫剤使って!」

「まったく仕方ないなあ」

 殺虫剤を使うと変なところに逃げ込まれたりするから、昔からの一番確実な方法でやっつけようと思ったのに。

 頭の中で愚痴りながらも、私は真っ黒などでかいスプレーを手に取り、ヤツに向かって吹き付けたのだった。
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