この窓を飛び越えて…



授業終わりのチャイムが響いた。


それを聞いて我に返ったように窓から視線を移す。



「きりーつ、礼!」



号令に間に合うように慌てて席を立ち、ペコリと頭を下げた。


先生が教室を出ていくと、周りの空気は一変する。



「莉ー桜っ」



わたしの名前を呼びながら近づいたのは親友、


遠山 香葉 [とおやま かよ]。


消極的なわたしとは違って、何事にも迷わず突き進める憧れの人だ。


わたしもそんな行動力があったら苦労しないのに…
と思う。



「次教室移動だよ?」

「あっ、そっか」



そう言われて机の中から教科書類を引っ張り出した。


二人で並んで教室を出る。



「そーえばさ、また窓ばっか見てたね」

「えっ…あ、うん」

「何かいいものあるの?」

「別にないよ」



微笑んで答える。



『名前も知らない人に恋をした』なんて口が裂けても言えない。


香葉にこんなことが知られたら、きっと隣の高校に乗り込むだろう。



「ふーん。まぁそうだよね。窓の外って言っても、九雪校しかないし…」




< 2 / 63 >

この作品をシェア

pagetop