この窓を飛び越えて…



先生が出ていくと、解き放たれたようにみんなが動き出す。

麗奈ちゃんも原田くんも友達らしき人の方へ向かってしまった。

生憎だけれど、わたしにそんな知り合いはいなくて…
ため息をついて周りを見渡す。

不意に、“窓辺の人”が目に入った。

心臓が浮き上がる感覚がわたしを襲う。



土井くん―――名前をやっと知ることができました。

それだけで、また幸せが一つ増えるんです。

でも、わたしは……


『土井くん』なんて、一生呼ぶことができないかもしれない……。

だから、わたしの中では『“窓辺の人”』で通し続けることにします。

これ以上、―――欲望が増えないように。




わたしは、しっかりと自分に鍵をかけた。


“窓辺の人”もあまり社交的ではないのかもしれなくて、自席に座ったままボーッとどこか一点を見つめている。

そしてその視線はゆっくりとわたしに注がれた。


「……っ」


こっちも、目が逸らせなくなる。



どうしよう…。
どうしよう…どうしよう…。



頭はパニックで、身体だって機能を忘れたように動かないんだ。

いつの間に、わたしはこんなにも溺れていたんだろうか―――

ただ。
ただそれだけを心のどこかで探っていた。




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