秘書室の言えなかった言葉
それから2ヶ月が経ち――…


まだ新居や結婚式の日取りは決まっていないけど。


8月のある日。

今日は知里の誕生日。

仕事を早めに終わらせ、予約していたホテルのレストランへ。

俺の鞄の中には、この間渡せなかった指輪が入っている。

プロポーズをした日に用意が出来なかったから。

知里の誕生日に渡そうと、知里にバレないように準備をしていた。

もちろん、知里の誕生日プレゼントも用意してある。

食事を終え、食後のコーヒーを飲む。


「なぁ、知里。上に部屋を取ってあるんだけど……。泊まっていかないか?」

「えっ……」


俺の言葉に顔を赤らめる知里。

そして、


「……うん」


恥ずかしそうに頷く。

今まで何度もお互いの部屋に泊まっている。

ホテルに二人で泊まる事は初めてでも、こういう事は初めてではない。

だけど、俺の言葉に顔を赤くしたり、恥ずかしそうにしたり。

そういう知里が可愛いと思うし、すごく愛おしい。

知里が化粧室へ行っている間に、俺は鞄の中から指輪の入った小さな箱を取り出し、ポケットに忍ばせる。

そして、戻って来た知里とレストランを出る。


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