秘書室の言えなかった言葉
「……社長」


誠司は気まずそうな声を出す。

そして、社長の後ろには英治も居た。

英治を見付けた瞬間、私はパッと目を逸らす。

ただでさえ、この1週間、気まずかったのに。

こんな現場を見られるなんて……


「佐伯専務、何をやっているんですか?」


私達の方に近付いてくる足音と、社長の少し機嫌の悪そうな声が、静まり返った秘書室に響く。


「いや……、あの、これは……」


いつも堂々としている誠司だけど、さすがに社長に見られ、あたふたしている。


「とりあえず、園田さんを離してもらえませんか?」


そして、私は誠司から解放される。


「園田さん、大丈夫?」


いつもの優しい口調で、声を掛けてくれる社長。


「は、はい……」


だけど、社長の方を向くと、近くに居るであろう英治も自然と視界に入る。

どんな顔をして私を見ているのか、知るのが怖くて、顔を背けたまま返事をする。


「あっ、そうだ。会社の前で、“佐伯専務の彼女が待っている”って連絡がありましたよ」

「えっ!?何で?あっ、すみません。お疲れ様です」


気まずそうな誠司は慌ててこの場から去ろうとする。


「あっ、そうだ」


だけど、何かを思い出したかのように、社長は誠司を引き止め、小声で何かを言っていた――…


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