抹茶な風に誘われて。
2.抹茶な風に包まれて。(お付き合い編)

Ep.1 かをる―夏の終わり

 庭の風鈴が、夏の終わりを惜しむように小さく鳴った。

 振り返るとちょうど今の音を最後に外されたところで、巾で綺麗に拭かれて、箱の中におさめられていた。

 丁寧にその作業をするのは、つい先ほどまで流れるような仕草でお茶を点てていた浅黒い手。

 その細長くて綺麗な指を無意識に見つめる私に気づいたのか、グレーの瞳がこちらを向いた。

「こういう季節物の片付けや何かも、大八木の婆さんがうるさかったもんでね。つい今でも習慣になってる」

 低い声で呟いて、私に微笑みかけるのは着物のよく似合う、彫りの深い顔立ち。

 もう何度も目にしているはずなのに、涼しげな微笑に胸がとくんと音を立てた。

「そ、そうなんですか……」

 自分でも頬が赤らんでいくのがわかるから、さりげなく目をそらして答える。
 不自然な態度に彼が気づかないわけなんてなくて、あっさりと着物の腕の中に捕らえられてしまった。

「せ、静(せい)さん――?」

「静、でいいっていつも言ってるだろう」

 耳元で囁かれた途端、私の頬は火を吹くほど熱くなる。

「で、でも……やっぱり無理ですっ」

 目をそらし続けてるのに、意地悪なグレーの瞳は追ってきて、逃げられずにかち合った目線で、楽しそうな色を浮かべてることがわかった。

 ――またからかわれてるんだ。ここは、平然としてなきゃ。

 思ったってもちろん心臓は正直で、今にも聞こえてしまいそうなほどに高鳴っている。

 ――だ、だって……顔がこんな近くにあるんだもの。ドキドキするなっていうほうが無理だよ。

 お見通し、とばかりに唇の端をあげた静さんが、腕の中の私をまっすぐに見下ろした。
< 102 / 360 >

この作品をシェア

pagetop