抹茶な風に誘われて。
 静さんに仲裁された形になって、駅へ向かったと思った優月ちゃんが、実はすぐに引き返してきたらしい。

 あの時元の彼氏のことでけんかした女の人が入ったお店――つまり香織さんが働いているお店でもあるんだけど――クラブ・シンデレラの裏口を叩いた優月ちゃんを見て、また騒動が起こるのかってあわてて出て行った香織さんに、訊ねたそうだ。

『さっきの人は誰ですか?』って――。

「これはまた静のファンができちゃったなって思ったのよ。それで軽い気持ちでさ、答えてあげただけ。静が相手にしないのはわかってたから、まあ素性教えてあげるくらいいいかって思って。だーって、あの子しつこくって、教えてくれるまで帰らないって粘るんだもん。未成年が店で騒いでちゃ、問題にされたら困るのはうちだし、追い払うためってのでもあったんだけど……」

「そう、だったんですか……」

 やっと納得が行ってすっきりはしたものの、そこまで熱心だった優月ちゃんを想像するとまた胸が痛む。

 私の表情が再び暗くなったことに気づいた香織さんが、二本目のタバコを箱から出した。

「てっきり静にあっさり追い返されて玉砕してるだろうって思ってたら、まさかそこまで厄介な子だったとはねー。こりゃあ、静も今、あせってんじゃないかな」

「静さんが……?」

「そりゃあそうでしょー! 適当に追い返すつもりが失敗して、挙句の果てに油断してキスされたところを彼女に見られちゃったわけだから。ねっ?」

 彼女、と言われた言葉をつい繰り返した私に、「あなたのことでしょ、もちろん」と香織さんが笑う。

 ――そ、そうか……そうだよね。私が『彼女』なんだ。

 付き合っているというのはそういうことなんだけど、自分の心ばかりを考えていて、静さんの気持ちなんて想像してもいなかった。
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