抹茶な風に誘われて。
「静さん……来てくれたんですね……!」

 目を見開いて嬉しそうな顔をしてからすぐに、自分の反応を責めるように俯く。

「ごめんなさい――お仕事があるんですよね? あの、今からじゃ間に合いませんか? 私のことは後でいいから……お仕事に」

「そのつもりならこんなところまで来ないさ。気にしないで話してみろ。何があった?」

 真面目を絵に描いたような性格の少女が、学校を抜け出すなんてよほどのことだ。

 それがわかるから、お遊び程度の茶席を放り出すことに迷いはなかった。

「わ、私が悪いんです。本当に――全部、私が」

 声をつまらせたのを合図のように、かをるの目に涙が盛り上がる。

 泣いているセーラー服の少女と、着物姿の純日本人ではない俺では目立つことこの上ない。

 犬の散歩で通りかかった主婦らしき二人連れがじろじろと見ていくことに気づいたかをるが、あわてて涙を拭いた。

「ご、ごめんなさい、あの……これじゃ、まるで静さんが泣かせてるみたいですよね。えっと、どこか目立たない場所に行ったほうが……」

「いいから気にするな。別に悪いことをしてるんじゃないんだ。堂々としていろ」

 ほら、と話を促すと、まだ困った顔で足もとに視線をさまよわせる。

 白い頬に残る涙の痕に苛ついて、俺が先に口を開いた。

「――俺とのことが原因でいじめられてる。そうだろう?」

 驚いた瞳がこちらを向く。全く予期していなかったのだろう俺の言葉に、事態が飲み込めていない顔だった。

「悪いが、お前の周りにはお節介な面々が集まっているらしい。黙っていても色々と耳に入るから聞かせてもらったよ」

 まぶしい秋晴れの日差しに片手を翳して、笑う。

 やっと見当がついたのか、かをるが自分の両手を握り締めて呟いた。
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