抹茶な風に誘われて。
 人がいいにもほどがあるというか、もう少し疑ってかかるべきじゃないのか、とか、言いたいことは色々とある気はしたが、以前と変わらぬ――いや、むしろ更に清々しい笑顔を輝かせる少女には、何も言わないことが優しさだと思えたのだ。

 クラスの女どもがどれほど優月に迎合していたのかまでは知らないが、あっさり態度を変えたことにももはや嘆息するほかない。

 ――まあ、ガキのやることだ。結局はそんなもんだろう。

 かをるのバイトが始まる前にと、散歩に出た河原で見つけたコスモス。

 薄いピンク色の可憐な花が並んで揺れるのを、幸せそうに愛でる少女をそばで見守る。

「ここのコスモス、この前の強風で倒れちゃったと思ってたのに、ちゃんと立ち上がってるんです! 見た目の繊細さからは想像できないくらい、本当は強いお花なんですって」

 あの花屋の夫婦からの受け売りなのか、きらきらした瞳で教えてくれた。

 それがそのまま、自分のことを言っているようだとは、おそらく夢にも思っていまい。

 弱いかと思えば強く、倒されてもいつの間にか微笑んで、しっかり太陽に向いて咲いている花のような――不思議な少女。

 純粋な光が闇を脅かすように、彼女自身の心が周りを照らすのかもしれない。

 そんなことを思いながらかをるの手を取った俺は、まだ気づいていなかったのだ。

 今時の性悪猫が、そう簡単にあきらめはしないのだということを――。
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