抹茶な風に誘われて。
「はいはいはーいっ、あたしあたし!」

 大きな声で待ちきれないように叫んだ優月ちゃんに苦笑して、アキラくんが「どうぞ」と促す。

 その余裕たっぷりの笑い方が、どうも昔の彼とイメージが違っていて、不思議な気がする。

 アキラくんといえば、いつも活発で元気で、賑やかな男の子たちの中心にいた記憶が鮮やかで。

 どちらかというと、女の子と一緒にいるのは苦手みたいで、私もほとんど話をしたことさえなかったのに――。

 目の前のアキラくんは、なぜか騒がれるのにも、注目を浴びるのにも慣れているみたいに見えた。

「あのっ、今付き合ってる人はいますか?」

 優月ちゃんの質問に、皆が一気に視線を集中させたのは、教壇にもたれるように立っているアキラくんの表情。

 予想済みだったのか、動揺も見せずに日焼けした頬を少し持ち上げた。

「残念ながら」と肩をすくめたことで、優月ちゃんをはじめ、皆が一気に盛り上がる。

「コラコラ、君たち……授業中だぞ!」とあわてたように声を上げた先生の言葉で、一応歓声はおさまったものの、忍び笑いはそこかしこで響いていた。

「じゃあ、あたしが立候補してもいいよね? えっと、あたし新田優月。現在彼氏募集中でーすっ!」

 ピースサインと共に堂々と明るい笑顔を向けた優月ちゃん。

 内心の嫌な予感が的中したことに不安を隠せなかった私は、アキラくんと目が合ったことで更に動揺した。

 瞳だけはガキ大将だった頃と同じ、いたずらっ子そのものの色をしていて、私の懸念を肯定するような目つきをしていたのだ。

 
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