抹茶な風に誘われて。
「そうそう、そういう目つき。お前って気弱そうで、結構勝気なとこあったもんなー。俺、言わなかったけどそういうとこ気に入ってたんだ」

「アキラくん!」

 あくまで冗談めかして答えるのか、と腹立たしさを隠せずに呼んだら、真顔のアキラくんに突然手首を掴まれた。

「ほら、また油断。お前、ほんっと危なっかしいのな」

 今度こそ笑われて、急いで振り払う。

 渡り廊下の真ん中だったから、何事かと数人の女の子が振り向いたけれど、アキラくんは堂々とした態度で両手をポケットに突っ込んだ。

「はいはい、そんな怖い顔しなくてもこんな公衆の面前で何もしやしないって。だからさ、今度こそちゃんとデートの約束しようぜ?」

「だっ、だからデートなんて……!」

 声を荒げかけた私に、しっと人差し指で合図して、歯を見せてニッコリ。

 日焼けした頬に浮いたそばかすだけが、奇妙に愛嬌を感じさせるのが不思議だった。

「いいから騙されたと思って付いてきなよ。一日付き合ってくれたら、とっておきの情報教えてやるからさ」

 開け放たれた窓から吹き込んだ風と共にアキラくんが囁いた瞬間、時間が止まったような気がした。
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