抹茶な風に誘われて。
 パシン、と乾いた音が響いて初めて、自分が静さんの頬を打ったことに気づく。

 自分で自分の行動に驚いて、その手を握り締めたけれど、声が震えるのを堪えられなかった。

「それでも――自分の父親じゃないですか!」

 叫んだ私を呆然と瞳に映す、静さんの表情はどこか危うげな、置き去りにされた子どものようなものだった。

「血のつながった、この世で唯一の肉親です。過去にどんなことがあったとしても……目の前で命を終えようとしている相手を、そんな風に拒絶していいはずない!」

 叫びながら思い出していたのは、山深く、ひっそりと佇むお寺の――寂しすぎる両親のお墓。

 写真も何も残っていない、私の肉親。

 二人がどんな想いで生き、どんな想いで息を引き取っていったのか、知る術ももうないのだ。

 ただわかっていることは、彼らが私をこの世界に誕生させてくれたこと。育てられなくなって、施設に預けたこと。それだけ――。

 でも、私はその選択に感謝したかった。

 例えその愛をこの身に受けられなかったとしても、自分という存在は彼らがいなければ生まれなかった。

 生まれて来られなかったら、こうして静さんに出会うこともできなかったのだから。

「ごめんなさい、生意気なこと……でも、お願いです、静さん。どうか――お父様に会ってあげてください」

 真剣な願いを、静さんはどう受け止めたのか。

 複雑すぎる光を瞳に宿したまま、私をそっと引き寄せ、長い間抱きしめていたのだった。
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