抹茶な風に誘われて。
 ――本気で殺してやろうかと思った。

 自分の中にこんな激情が眠っていたなんて、今まで想像もしなかった。

 何もされてはいなかったとしても、しようとしたことだけで許せるはずがない。

 でも、当の本人がきっちりと裁いてしまったのだ。

 あれでは、何もできるわけがないじゃないか。

 いつの間にか苦笑が浮かんでいることに気づいて、俺は夜の海を遠く見やった。

 時折小さく船の灯りが暗い海を照らしている。

 緑の木立が、海風を受け止めている。

 あの男の本心――かをるを巻き込んだ復讐に気づいた時、迷いもなく旅立っていた。

 再会のささやかなプレゼントだと、綾子が用意してくれたチケットで付いてきた三人。

 あの時は苛立ったが――こうして落ち着いてみると、一人じゃなくてよかったかもしれないと感じた。

「一人だったら、今頃何してたか……」

 呟いた言葉は、名も知らぬ島の風へと溶け込んでいく。

 かをるは、今頃笑っているだろうか。
 

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