抹茶な風に誘われて。

Ep.13 再訪

 そしてやってきた週末の土曜日、私は静さんと日本家屋の前にいた。

 情緒たっぷりのいつもの平屋ではなく、豪華なお屋敷――『一条』の表札が掲げられた京都の静さんのご実家。

 付いてきてほしいと言われて嬉しかった気持ちは、松の枝をくぐって玄関に足を踏み入れた瞬間にはもう緊張に変わっていた。

「静お坊ちゃま――大変ご立派になられて」

 年配の女性が呟くのに、静さんは口の端に浮かべた笑みだけで応えている。

 常と変わらぬ着物を着こなした背中はぴんと伸びていたけれど、どことなく顔つきは硬く、静さんがこの訪問でどれほど迷ったかが読み取れた。

「静さん……」

 そっと声をかけたら、やっといつもの微笑が返ってくる。

 くしゃり、と髪の毛に手を差し入れられて、グレーの瞳が優しくなった。

「心配するな。お前はただそばにいてくれればそれでいい」

 ――いてくれれば、そう言った静さんの声で私は胸がほわんと温かくなるのを感じる。

 いつものように強気じゃない表現。

 ともすれば聞き流してしまいそうな言葉の使い方でも、静さんが私を必要としてくれているのがわかるから。

「大丈夫、私はいつも静さんの味方です」

 張り切って耳打ちしたら、きょとんとした顔がおかしそうにゆがんだ。

「……そうか。それは頼もしいな」

 戦いに行くんじゃないんだぞ、と呟いた静さんの顔は、それでもさっきまでよりやわらかい表情を浮かべていて。

 自分の試みが少しでも成功したことを知った私は、再び廊下を歩き出した静さんの背中を追った。
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