抹茶な風に誘われて。
「でも――大丈夫、です。私……あの時、よくわかったんです」

「あの時?」

「アキラくんに襲われそうになったのを、助けてもらった時……」

 消え入りそうな声で言った途端、抱きしめる腕の力が強くなった気がしたのは、気のせいじゃなかったらしい。

 無言で深く口付けてくる静さんを受け入れながら、唇が離れた後息をもらした。

「静さん、あんな風に外国にまで来てくれて――ちゃんと私を守ってくれました。どうやってわかったのかとかよりも、私を守るためだけに来てくれたことで嬉しくて。それに――」

「それに……何だ?」

 首筋にまで熱い唇を落としながら、静さんが続きを促す。

 でも答えることはできなかった。

 畳の上にどさりと押し倒されたから、というだけではなくて――。

 アキラくんの剥きだしにされた敵意と悪意に満ちた手つきと比べて、大切にしてくれる人の仕草がわかったからだとか。

 たくさんの女の人と関係があったことよりも、今の私を大事にしてくれている気持ちを感じたからだとか。

 そういう心の動きを、口に出して説明することのほうがおかしい気がしたからだった。

「せ、静さん……私、まだお風呂に入ってません」

 乾いたままの髪を指先で絡めとリ、楽しむように口付ける静さん。

 せめてお風呂に入ってから、と弱々しい抵抗の意を示した私に、グレーの瞳が意地悪に瞬いた。

「風呂なら、あとで一緒に入ろう」

「いっ、一緒になんて――!」

 真っ赤になって叫びかけた私の唇に、また人差し指を当てて静さんが笑う。

 ぐいっと体を抱き上げられて、既に隣の部屋に敷かれていた布団の上に下ろされて――息を呑んだ私を見つめて、低音が囁いた。
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