抹茶な風に誘われて。
「わかった! 一条時定!」

「え――?」

「そっかあ、だからまた別の日にお父様に会う予定があるって言ってたのね!」

 やっとわかった、と嬉しそうに笑うハナコさんを嫌そうにちらりと見た静さんが、「やっぱりお前……聞いてたな」と呟く。

 さっきのやりとりを思い出した私が耳まで赤くなるのと対照的に、静さんは顔色一つ変えなかったけれど。

「要するに抹茶の楽しめるカフェ兼教室、そこに和菓子屋と花屋が出店してるって話だ。まずは試験的に一店舗出してみる。そして成功すればフランチャイズとして増やしてもいいと思ってる。まあ、信頼できる茶道の講師が必要だが」

「へえーっ、いいじゃん! 抹茶カフェ!」

「本当―! こんなこと言うとあれだけど、ちょっと茶道って近寄りがたいイメージっていうか、庶民には気軽に始められないもんね」

 優月ちゃんと咲ちゃんが賛同するのを見て、静さんはニヤリと唇の端を上げる。

「流行に敏感な女子高生が賛成するなら、やってみる価値もあるというものだ。そうだろう? かをる」

「は……はい。それは私もすごく素敵な案だと思いますけど――」

 それが自分の進学費用と何の関係があるのだろう。

 とあくまで首を傾げていたら、ため息を一つ吐き出して、静さんが呆れたように笑った。

「ここまで言っても感づかないか。まあお前にそれを期待しても無理なのはわかっていたがな」

 長めの前髪をかきあげて、グレーの瞳をまっすぐ向ける。

 冗談めかして話していた今までから一転して、深い色は真剣な光を宿した。

「お前には、そこに出す茶花をプロデュースしてもらう。繊細な美的感覚を見込んでの、これはプロとしての仕事だ。だから、そこにはちゃんとしたギャランティーが発生する」

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