抹茶な風に誘われて。
「ん? 何、かをるちゃん」

「あの――ホストって……静さんが?」

 よくはわからないまま気になって訊ねる。

 そこでやっと思い出したように亀元さんは笑った。

「あ、ごめんごめん。言うの忘れてた! そうだよ、静もやってた。ちなみにホストってのはこういうお店で女性客の酒やお喋りの相手をする仕事。まあ、結構偏見とかあるけどさ――かをるちゃんがそのせいで嫌わないでいてくれたら嬉しいな。じゃね、呼び止めちゃってごめん。花、ありがと!」

 片手を振って、掃除道具を取りに行きかけた亀元さんが、また戻ってくる。

「また言うの忘れてた――今度の土曜にお茶会やるんだ、静の家で。気の合う茶飲み友達だけ集まる会だから、気軽に来てよ。ねっ! 三時から。待ってるよー!」

 バイバイと盛大に両手を振られ、私はあわてて口を開く。

「でも、あの……!」

 訊ねたかったことに気づいたのか、どうなのか、亀元さんはピースサインをしながら歯を見せる。

「静なら大丈夫! 誘っていいかって聞いたらオッケーって言ってたから! じゃーねー!」

 先回りして答えられてもなお、私は困ったままその場に突っ立っていた。

 他のホストらしいお兄さんたちが外から数人入ってくるのを見てやっと体が動く。

 胸がドキドキして、自転車の帰り道はふわふわと夕闇を漂っているかのようだった。
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