抹茶な風に誘われて。
「――今、何て言った?」

 思わず振り向いたら、背後で鏡に自分の着物姿を映していた駄目元がにやっと笑った。

「だからー、今日かをるちゃん来るからって言ったんだよ。いいだろ、人数は多いほうが楽しくていいじゃん」

 さっき着付けてやった麻の着物でふざけたようにくるっと回って、言ってのける駄目元。

 金髪が風情も何も台無しにしていることなど気づいていないらしいホストは、天然を装ってはいるが、してやったりという顔をしていた。

「なんで勝手に……」

 呟きかけ、襖を開けて戻ってきた今日の正客を見て、口をつぐむ。

 しかしすぐさま何か不穏な空気を感じ取ったらしい男はにやにやと近づいてきた。

「ちょっとー何、何? なんかもめごと? 静ちゃん、なんで不機嫌そうな顔してんのよー。もしかして、女がらみとかじゃないでしょうね!」

 いつものことではあるが、俺と同じくらいの長身と、俺より更に筋肉質な体とはおよそ似つかわしくない女っぽい口調と仕草にげんなりする。

 とてもじゃないが、自分できちんとお召しの着物を着てきたとは思えない奴だ。

「さすがはハナコさん。いい勘してんねー! そのオ・ン・ナ。しかも花の女子高生だよーん。今日のお客さんで、実はこれが静の新しいお相手――むぐぐっ。うがっ、静! あにすんだよっ!」

 俺がこうるさい駄目元の口を片手で塞いでいる間にも、ハナコは気にせず笑う。

 オカマバーで働く夜の姿とは違って、今は短髪の上、化粧もしていないから、全く似合ってはいない源氏名なのだが。

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