抹茶な風に誘われて。
「だっ、だって、お花屋さんは、お花を本当に大事にしてます! 売れ残っちゃう花もあるけど――それでも精一杯お花を通して喜んでくれるお客様の笑顔を見るために。買われていった花は、それぞれその先で誰かに喜んでもらってる。だから、あなたみたいにただ花を折っちゃうような人とは違います。それに、私だってお肉もお魚も、野菜だって食べるけど……全部感謝して、栄養にさせてもらってるんです。あなたはその花を無駄に折ったんじゃないって言えますか?」

 律儀に全ての質問にきっちりと答えた少女は、息を切らして俺を見上げる。

 小さな背からは想像もつかないほどの、勝気な声。

 ――変な奴。

 それが俺の第一印象だった。

 ――だけど、嫌いじゃない。

 俺はにやりと笑みを浮かべて、少女を見下ろしてやった。

「さあ、どうだか。無駄に使われるのかどうなのか、気になるなら後でもつけてみるんだな。その代わり、ストーカーで警察に突き出してやるけど。じゃあな、おちびちゃん」

 最大限に冷たい口調で言い捨てて、背を向ける。嫌味たっぷりに夕顔の花を振ってやることも忘れなかった。

 信じられない、とでも言いたげな少女の顔をちらりと振り返ってから、俺は階段を下りた。

 もしも駄目元がここにいたなら、きっと気づいただろう――背を向けた後の、楽しそうな俺の顔に。

 でも幸い、あの少女には見えない。

 一条静に対等に渡り合おうとする、あの無謀な高校生には。

 ふ、と口元が緩む。

 さっきまでの苦い記憶は、いつの間にか胸の奥底に静かに沈み、穏やかな気分が俺を包んでいた。
< 9 / 360 >

この作品をシェア

pagetop