抹茶な風に誘われて。
 翻る水色のワンピース。揺れるポニーテール。

 走り去ろうとする小さな背中を、俺はしばらく呆然と見つめていて。

 遊びなら近づくな。

 そんな中途半端な付き合いならいらない。

 ――そういうことなのか?

 自分を否定されたような、奇妙な苛つきが一瞬わきあがる。

 笑わせるな。俺の何を知ってるから、そんなに好きになるって言うんだ。

 コドモの恋心なんて、すぐに冷める。

 そうだ、俺にはわかっている。

 どうせ俺のことなど、本気で必要とする奴などいない。

 冷えた心の中心に舞い戻ろうとする無意識の自分。

 ――本当に?

 小さな声が聞こえる。

 今朝も彼女を迎える準備をしながら、どこか気持ちが浮ついていた。

 誰かが来るのを楽しみにするなんて、何年もなかったことで――。

 無垢なかをるがやらかす一挙一動がおかしくて、微笑ましくて、何度も笑った。

 ――それは本当に、ただのお遊びだったのか?

 問いかける声。遠くなるかをるの背中。

 もう会わない、だと?

 思った途端、足が動いていた。

「やっ……離してください!」

 かをるの声を聞いて、初めて自分が彼女を引きとめたことに気づいた。

 そう、何も考えられないまま、腕の中に華奢な体をおさめていたのだ。
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