「愛してる」、その続きを君に


二人の青年は何事もなかったかのように、夜道を歩き出す。


空には霞みがかった満月が浮かんでいる。


「なぁ、雅樹。今夜は朧月夜だな」


「ああ…せっかくの満月なのに」


今夜の月の形はわかっているのに、霞みが邪魔をして、その真の姿を朧ろげにさせるのだ。


まるで俺たちみたいだ、と彼らは思う。


この小さな港町で育った幼なじみ三人の恋は、もう決着がついている。


夏海は信太郎を想い、信太郎は夏海を想う。


それを知りながら、あきらめきれない恋に身を焦がす雅樹。


これが「真実」だ。


けれど、三人は知らないふりをする。


わかっているのに、わからないふりをする。


意地が、プライドが、そして友を思う気持ちが霞となって、その「真実」を曇らせる。


「雅樹はさ…ナツのことが好きなんだろ?」


彼は穏やかに答える。


「大事な幼なじみだよ」と。


嘘だとわかっていても、それ以上何も言えない。


すると逆に雅樹が訊ねる。・


「いい加減、なっちゃんと仲直りしたら?」


「…今さら何言ってんだよ」



アスファルトに照り返す外灯の白い光が冷たく感じる。


ふたりの影が、その光に長く伸びた。

< 82 / 351 >

この作品をシェア

pagetop