光を背負う、僕ら。―第2楽章―
別に強くならなくても良いよ。
そう言うことが出来たら、どれだけ楽だっただろう。
でもあたしだって、伸一の決意を踏みにじるようなことはしたくない。
「俺も麻木も目指してるものがあるから、今はそれに向かって頑張るべきだとも思うんだ。自分自身のことにも向き合えないぐらいなら、俺は強くなれない気がするし。だから……」
「……うん、今は言わなくていいよ。あたしも、今は聞きたくない」
伸ばしてしまいそうになる手を、笑顔で誤魔化しながら引っ込める。
今手を伸ばすべきものは、伸一への感情ではない。
お互いに一番目指したいものがあるのなら、それをまず手にするべきなんだよね。
「余計な感情が夢の邪魔になるなら、それは言うことも聞かない方が良いよね。だって二人とも、お互いの夢を応援してるんだもん。それなのに邪魔するようなことしたらダメだよ」
……大丈夫だよ。
本当に手に入れたいもののために荷物を置いていく覚悟はずっと前からしていたのだから、今さら伸一の気持ちをすぐに聞かなければならないということもない。
むしろその気持ちを聞くことが伸一とあたしの夢への道を閉ざす可能性があるなら、喜んでこの感情を道の途中で置いていくよ。
だから大丈夫だという思いを込めて、努めて明るく振る舞った。
「ああ、ありがとう」
伸一もその姿に安堵したのか、やっといつもの伸一らしく明るく笑った。
その笑顔が嬉しくて、あたしの表情も自然と柔らかくなる。
「ちゃんとやるべきことが終わって、気持ちの整理がついたら、そのときに……俺の気持ちを伝えたいんだ。だからそれまで待ってて欲しい。俺のわがままだけど……」
伸一が様子を窺うようにあたしを見た。
そのわりに声だけは芯が通ったように真っ直ぐで、ちぐはぐなギャップに心は簡単に捕らえてしまう。