光を背負う、僕ら。―第2楽章―
「…っ」
息が、詰まる。
まるで呼吸の仕方を忘れてしまったように、胸の奥が悲鳴を上げる。
嬉しかった。
ただ、嬉しくて仕方がなかった。
伸一があたしのピアノを好きだと、優しいと言ってくれる。
たったそれだけのことなのに……。
どうしてこんなにも、幸せな気持ちになれるのだろう。
机にもたれるようにして立っている伸一とピアノの傍に立つあたしの距離は、とても微妙なもの。
数歩歩けばあっという間に近付ける距離なのに、実際はそんなこと出来ないからとても遠い。
それが二人の、現実。
今二人の視線はお互いを見ているというのに、実際は全く別のところを見ている。
それはきっと、背中合わせの状態よりも切なくて苦しい。
……知ってるよ。
ちゃんと自覚だってしてる。
伸一が“好き”なのはあたしが弾く“ピアノ”であって、“あたし自身”ではないことぐらい。
それでも夕陽に染まる彼の笑顔が輝いて見えるから、あたしはこの気持ちを偽ることなど出来ない。