太陽と雪
午後になって、会議室があるホテルから直接、動物病院に向かった。

ホントは、今日は診療は休み。

社員もほとんど有給休暇だし。


ヘリを降りると、矢吹に見送られた。


「行ってらっしゃいませ、彩お嬢様」


「言われなくても行くわよ。

そのためにわざわざ来たんだから」


それだけを言って、ヒールの高いパンプスでコンクリートを叩きながら、病院に向かった。


「おお、彩ちゃんか。

君から連絡を受けて、居ても立ってもいられな
くてな。

一応、この病院にある、あらゆる資料を引っ張り出していたんだ」


呆れた……。


確かに、院長のデスクには書類がうず高く積まれている。

今、震度2の地震が来たら、私たちが書類の山に埋もれるだろう。


「もう……気持ちは分かるけれど、これはないわよ。

まあ、私も時間より2分ほど遅れてしまったのは申し訳ないけれど。

会議がね、少し長引いてしまったのよ」


「仕方ない。

君にはいろいろな仕事があるんだ。

さあ……決算のための資料作成を始めようじゃないか」


私たちは、それから、パソコンソフトを駆使して、利益を計算した。

計算した結果、診療で得たお金より、病院経営の維持費でかかった金額のほうが多くなってしまっていた。


……30万円の赤字だ。


規模が大きな会社や動物病院ならいい。

しかし、この中規模な北村動物病院で30万円の赤字は、正直厳しい。


さらに驚くべきことに、パソコン1台がウィルスに感染していた。

その上、金庫まで開けられていたのだ。

金庫の中には、従業員の給与明細や、この病院の立地当時の金額など、あらゆる機密書類が入っているのである。


あれがないと、この病院で働く獣医たちに大きな影響が出てしまう。


「彩ちゃん。
明日は朝から来れるかな?」


「はい……」


「じゃあ……君も疲れただろう。
今日は帰っていいよ」


矢吹にも促されて、帰ることにした。

院長……この病院……畳む気だ……
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