太陽と雪
「それはそうと麗眞坊っちゃま。
ご存知でしたか?

どうやら、椎菜さまには兄のように慕っていらっしゃる、既婚者の先輩獣医師がいらっしゃるようで。

例のホテルで水着や浴衣を見繕った際、おっしゃっておいででした。

成人式の日に着る振袖も、麗眞坊っちゃまの誕生日プレゼントを選ぶのも。

高校時代の友人カップルであるお二人の結婚祝いの品を選ぶのも。

1人じゃ不安かつ男性の方の意見が欲しいということで、その方についてきてもらった、ということでした。

実際に美冬(みふゆ)様と賢人(けんと)様にお渡しする結婚祝いの品を選びに街を歩いていた際、偶然麗眞坊っちゃまとすれ違ったそうでございます。

新しい彼氏かと勘違いされて、別れようと言われないか不安で言えなかった……
今にも泣きそうな顔でそうおっしゃっておりました」


そのときのことは俺も鮮明に記憶している。

2年前の、ある日の休日だった。

籍は入れたが式はまだ開催できていないという高校の同級生カップル。

彼らの結婚式と披露宴をサプライズで開催しようと決めていた。

本人もアナウンサーとカメラマンだ、1日空けられるスケジュールはさほど多くない。

その貴重な休みを無駄にしないため、高校時代の知り合いとテレビ電話での会議や屋敷に招待しての話し合いを重ねてきた。

会場の下見や協力してくれる方にお礼の品を買うため、お台場で車を降りた。

椎菜には帰国することは言っていない。

夏らしく、少し歩くと吹き出る汗を拭いながらお台場を歩いていると、偶然、椎菜がいた。

茶色い髪は鎖骨を超えるくらいの位置で毛先がカールされている。

高校の頃は胸元を超えるくらいの長さだったが切ったのだろうか。

高校の頃は私服でのデートの際、ネックレスやイヤリングの類をほぼ何かしら着けていた。

早くイヤリングではなくてピアスを着けたいとよく言っていたのが印象的だ。

ネックレスはバロックパールとガラスストーンが2連になったものが当時からのお気に入りらしくその日もそれを着けていた。

夏というよりは秋に映える質感のオレンジの丸いピアスが耳から垂れ下がっていた。

ピアスホール、いつの間に開けたのか。

白いキャミソールにレースブラウス、オレンジ色のギンガムチェックスカート。

膝にはかかる丈なのはセーフだ。

しかしながら、白いキャミソールにレースブラウスはいただけない。

レースブラウスは鎖骨や腕の素肌が覗くようになっている。

俺だったらそれを着るなとは言わないが、上に何か羽織らせる。

そもそも、俺と夜を過ごしたあとなら鎖骨の辺りの肌が覗く服は着ないはずなのだ。

理由は簡単、俺がいくつも身体に刻む所有印がモロに見えるから。

ノースリーブやミニスカートを好んで着なくなったのも、大学生に成長して子供っぽく見られたくないからだろうか。

また、白い靴下からはちょこんとフリルが顔を出しており、白いサンダルは厚底な上にヒールが高くて歩きづらそうだ。

それに、サンダルのリボン結びが解けかけて不恰好になっている。

あくまで自然に、サンダルの結び目解けてますよと声を掛けようとすると、隣には俺の知らない男がいた。

椎菜よりだいぶ年上だ。

随分と仲良さげに、プレゼント云々について話していた。

俺の知らない男と、ときおり笑顔を見せながら仲良さげに歩いている椎菜に。
その男に。
妬いた。

予定していた買い物も下見もせず、すぐにまっすぐリムジンに戻ってきた俺を見て、相沢は驚きつつも何も聞かないでいてくれた。

そして、無言で宝月の屋敷に向かって車を走らせてくれたことを、昨日のことのように思い出す。


< 172 / 267 >

この作品をシェア

pagetop