太陽と雪
その後、矢吹さんは姉さんのところに向かったらしい。

俺と相沢は、美崎さんの部屋で、先程姉さんと何やら口論していた事の次第を聞いた。


「はあ?
マジで?」


どうやら、オーストリアの資産家、ベロナード家の息子と政略結婚させられることは確定らしい。


「はぁ?
ふざけんなよ……

姉さんには矢吹さんが……」


「それにしても、美崎様。

なぜ彩さまは、オーストリアの公爵との政略結婚を?

彩さま自身には何のメリットもないように思われますが……」


「……相沢さん。

それはね、ベロナード家の財政やら経営状況が傾いてきてるみたいなの。

このままでは、国民からの信頼を失ってしまうかもしれないって」


……それは、確かに。
姉さん、首を突っ込みそうな案件だな……

それはそうと、傍から見ていると、お互い微妙に目を背けながら話をしている相沢と美崎さんを見ている方が面白い。

意識しまくりだろ、お互い。


「許せない。

巻き込むなら私だけにしなさいよ。

こうも私の周りの大事な人まで巻き込んで……
往生際が悪いわ。

全く」


「それが、あの方のやり方なのでしょう。

今回のように美崎様の周囲の人間を巻き込むことによって、不安や焦燥感を煽らせる……というのが常套手段なのかと」


「相沢、推測のような言い方にしては、信ぴょう性あるけど?」


「そうでございますか。
それは何よりでございます」


………相沢は、何か知ってるのか?

昔の、城竜二家。

つまり、美崎の母親についても。

そういえば、相沢は、俺が執事になる前は何をしていたのか聞いても、前の家でも今と似たようなことをしていたとしか教えてくれなかった。

まさか、昔、城竜二家にいた、とかね?


考えすぎか。

……いや。

でも、一応俺は刑事なのだ。

あらゆる可能性を考えて、行動しなければならない。

俺が考えた可能性は、もしかしたら近い将来、遠い将来かもしれないし、そんなことはないのかもしれないけれど。

相沢がこの宝月家の敵に回る可能性、そうせざるを得ない状況も考えられる。

少なからず相沢は美崎に好意を抱いている。

美崎のためならなんだってやるという考えを抱く可能性は0%に近いが、ないとも言い切れない。

そうなったときのために、何らかの対策を講じなければならない。

俺は、ぼんやり美崎さんの話を聞きながら、そんなことばかりを考えていた。


「麗眞くん?
聞いてる?

ぼんやりしてたけど」


「ああ、大丈夫。
気にしないでくれ。
それで?」


「美崎様は、明日にでもオーストリアに向かうそうです。

麗眞坊ちゃまと私も、彩さまには決して気付かれないよう、隙を見てオーストリアに向かうようにとのことです」


「……分かった。

近いうちに、必ず行く。

美崎さん、くれぐれも、怪我にはお気を付けて。

貴女が怪我をして悲しむの、他でもない、姉さんですから」

俺の横にいる相沢も、というのは口にはしないでおく。

「……分かってるわよ。
当たり前のこと、言わないで」


美崎さんを不安げに見つめている相沢が気にかかって仕方がなかった。

その相沢にそのお坊ちゃんの身辺調査を依頼してから、俺は自分の部屋に戻った。

ベッドに寝転がって考えたのは、美崎さんと相沢の関係。

そして、姉さんは大丈夫だろうか。

その2つだった。
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