太陽と雪
「麗眞坊っちゃま……」

俺の優秀な執事、相沢が俺に問いかける。

顔が少し紅かったのが気になったが、ツッコまないでおく。


「相沢、どうした?」


「あの……彩さまには……このまま秘密にしておくのですか?」


「当然、だろ?
姉さんが傷付く」


「坊っちゃま。

せめて……彩さまの執事の……矢吹さんだけには話しませんか?」


相沢のその問いに対しては、俺は肯定も否定もしなかった。


夕食の時間も、矢吹さんにだけは話すべきか否か。

そればかりを考えていたから、ほぼ無言だった。


夕食を食べ終えてからしばらくして、またテーマパークに入って、花火を見た。

姉さんは、花火を観るのが初めてだったらしく、テンションがかなり上がっていた。


花火だけでこんなテンション上がるか……?


テーマパークに入る前は、靴擦れで足が痛いから歩きたくないだの、いろいろ言ってたのに。

女って、わかんないな。


俺と姉さんたちがホテルの部屋に戻った直後部屋に姉さんがやってきた。

ご丁寧に、ドアまでノックをして。


「どうした?
姉さん」


「麗眞っ……!

貴方……私に何か隠してるでしょ?

貴方が口数が少ないときは……何か隠してるときよ!

必死に貴方のお友達、理名(りな)ちゃんがドイツに行くことをひた隠しにしてた時と同じ顔をしてるわ。

それくらい……判るわよ。

何年、貴方の姉やってると思ってるの?」


やっぱり……姉さんにはバレてたか。

まさか、俺が高校の時のエピソードまで引き合いに出されるとは。

俺の高校の時の友達である桐原 拓実(きりはらたくみ)がドイツに行くことになった。

同じ高校に通ってはいない。

だが、と高校は違えど、拓実が恋愛感情を抱いている俺の同級生、理名にそれを言わずに旅立つことは止めろと説得した。

そして、出発の5日前に拓実が理名に直接告げたいからと、話をされた。

そのため、俺からは理名にそれを伝えなかったのだ。

その際も、理名に対してめっきり口数は少なくなった。

不用意に話しかけて、うっかり口走りそうになるのを防ぐためでもあったのだが。


懐かしいな、あの頃が。

だけど姉さん、今は言えねぇよ。

姉さんのためなんだ。


「彩お嬢様には話しづらい案件のようで。
でしたら……私には話せますね?」

矢吹さんが、口を挟んできた。

矢吹さんには……話さなきゃダメか。

そりゃそうだよな。

矢吹さんは姉さんの執事だ。

姉さんに何があってもいいように守るのが、執事としての仕事だ。

それが万が一にも出来なかったら、彼はクビになるだろう。

そうしたら、姉さんは悲しむ。

悲しむだけで、済めばいいけど。

姉さん自身は無自覚だが、少なからず、矢吹さんに恋心を抱いている。

覚悟を決めて、矢吹さんの問いに頷いた。
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