太陽と雪

疑惑

「何か掴んだ?
矢吹さん」

私に話し掛けてきたのは、麗眞さま。


「私は……何も」


「麗眞さまは?」


「城竜二家では、何の魂胆かは知らないが、主に付く執事が日替わりらしい」

「日替わり……?
何のためにそのようなこと……?」


「嫌な予感がする。

……俺たちが興味本位で首を突っ込んだら、

俺どころか……姉さんまでダメになるような……

そんな気がするんだ。

まあ…矢吹さんは気にしないでよ。

俺は姉さんとは違う。

カンがいいわけじゃない」


「麗眞さま。

もしも……という仮定の話ですよ?

あまり本気になさらないでください。

亡くなったはずの藤原が生きていて、彼が美崎さまの執事だとしたならば?」


「いや、それはないだろ」

「そうですか。

では、私の発言も忘れて下さいませ。
私の執事としての勘で申し上げただけですので」


「あ……ああ。

分かったよ。

それより……矢吹さんは早く姉さんの元に戻ったほうがいいんじゃない?

姉さんを1人にすると……いろいろ危ない」


盗音機の音声を聞くにあたって、美崎さまのお部屋に少しでも近い、相沢と麗眞さまの部屋にいたのだ。

「お言葉に甘えて、そうさせて頂きます。

申し訳ございません……」


「何で謝るの?

矢吹さんが仕えるべき主は、俺じゃなくて姉さんなんだからさ。

それが仕事だろ?

おやすみなさい、矢吹さん」

「麗眞さま、おやすみなさいませ」


麗眞さまのその言葉を聞いて、私はすぐさま彩お嬢様のもとに戻った。


部屋のドアを開けると、高沢がいた。


「高沢……」


「お帰りなさい、矢吹さん。

私が診察がてら、彩お嬢様の様子を観察しておりました。

ご安心を。

専属医師として、不埒な真似は一切しておりませんよ。

異常なし、です」


「ありがとう、高沢……」

「いいえ。
では、私はこれで。
失礼致します」


彩お嬢様が、涙目でこっちを見ていることに気付く。

「どうされました?
彩お嬢様…。
また、泣いていらしたようですが」


「何で……なのかな……矢吹。

何で今更…藤原の夢なんか……」

そう言うやいなや、私の胸に飛び込んできた。
泣きじゃくりながらいつになく素直な彩お嬢様。

素直な彩お嬢様はとても可愛いな、と思う。

この体勢は何とかならないものか。

ちょうど私の胸元辺りに彩お嬢様の膨らみが先程から当たっている。

これ以上何かあってはいけないと、必死に鉄の理性を総動員する。

それに必死だった私は彩お嬢様に何の夢を見たかなど、聞かなかった。

――聞いていれば、良かったのに。


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