夜明け


加奈は慶太と同じ大学に通っていた。

もしあの時妊娠さえしていなければ、加奈は慶太と同じレベルの会社に入れたのではないかと思う。

加奈にだってそうなるであろう将来とキャリアがあったはずだ、それが妊娠によって加奈のだけ奪われ、慶太は自由になった。

それを考えてしまえば不満以外の何でもなく、むなしさ以外の何物でもなかった。

ただ、加奈は子供たちを愛しているし、今の生活において全く不満もない。だから、こんなことは考えるだけ無駄だし、あのとき違う選択をしたら、こうして幸せな環境にいることも保障されるわけではないこともわかっている。

ならば、やはり目を瞑るべきなのだろうか。



しかし、加奈には気になることがあった。



加奈は何となくそれが「中華の素」の女である様な気がしていたのだった。

確固たる証拠なんてないが、こんなときの女の勘は当たるという言葉で済ませてしまえば簡単だ。

きっと気のせいよ、と誰もが言うだろう。加奈も初めはそう思っていたのだから。

しかし加奈は、どうしてもそれが頭から離れないというような証拠はつかんでしまっていた。



それは匂いだった。



慶太が、会議で遅くなって、夜飯は適当に済ませてくる、と言うときには何故かいつも中華料理のあの独特の匂いをまとって帰ってきた。

ラーメンでも食べてきたの?と聞くと、まぁ、そんなとこ、と答えた。

それはラーメンの匂いではなかったのだが、似ているのでそう勘違いしてふりをしてやろうと思った。

ラーメンを食べたことに対し、あいまいな答えなんて普通しな、と加奈は思う。

食べたなら食べたと言えば良いし、食べてないなら食べてないと言えば良い。

こんなこと考えたくない、考えさせないでほしい、うまく嘘をついてほしい、どうせなら面倒くさがらずに徹底的に騙して欲しい。

加奈は奥歯を噛みしめながらそう思った。

毎日商店街を通り、中華料理屋とラーメン屋を通る加奈にとってその匂いをかぎ分けることなんて容易いことだった。



その匂いを嗅いだ瞬間に思い浮かんだのは、あの「中華の素」だったのだから。





< 8 / 8 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

MACHOCO
COKO/著

総文字数/3,972

恋愛(ラブコメ)7ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
真知子はいつも思ってた。 どうして私だけ幸せになれないのだろうと。 真知子の周りは皆、幸せそうなのに。 真知子が好きになった人にはいつも可愛い彼女ができる。 真知子が告白すると、いつも玉砕に終わり 傷つくばかりの日々。 だから真知子はいつも一人ぼっち。 でも真知子は負けない。 負けない真知子のお話。
夢見たものは
COKO/著

総文字数/38,878

恋愛(その他)62ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
野球している小学生も 手を繋いで歩くカップルも 私にはすべてが眩しかった。 それは太陽に溶けて消えたいと思った 15歳の夏だった。
私様彼女
COKO/著

総文字数/773

恋愛(純愛)2ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
何よ、私が間違ってるって言うの? あなたに拒否権はないわ。 運動、勉強、些細なことまで 何でも完璧にこなす 容姿端麗、才色兼備 学園を取り仕切る生徒会長 吉川 彩菜 (よしかわ あやな) 18歳、まさに華の女子高生 怖いものなし!!! ドジ、おっちょこちょい、天然 傍から見ててハラハラしちゃう 可愛い顔でみんなから愛され 人気を集める生徒会副会長 森田 陽太 (もりた ようた) 18歳、今日も笑顔で頑張ります! 会長、待ってくださいよ~!!! す、すみませーん 全て完璧な私様な生徒会長と 天然ドジなイケメン副会長が 不器用ながらに 恋をする?

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop