。*雨色恋愛【短編集】*。(完)
夢を見た。

あたしは、病院のベッドの上で、奏があたし

のベッドに伏せて寝ていた。

お兄ちゃんもいた。

梨那も、夏喜クンも…

あたしが起きると、奏はあたしを抱き締めて

くれて。

好きだって、言ってくれて。

…あたし、三途の川中?

意味わかんない。

けど、奏があたしの好きな…

いや、変わってからも好きだったけど。

ありのままの奏でいてくれて。

あたしたちは、付き合ったままのようだった

から。

きっと、死んでるのに、頭の中では…

まだ奏を追い求めてる。

…好き、好き、好き。

大好きなのに、なんで伝わらないの?

奏に言葉を返そうとして、口を開くけど、あ

たしは声が出なくて。

奏が、不安そうな顔をしていて。

好きなんだって…

わかって。

あたしは、奏が大好きなんだよ…

涙を流すあたし。

あっ…わかった。

伝えられないんじゃない。

あたしは、伝えようとしてないんだよ。

自分から、奏にもっと突き放されるのが怖く

て、避けてるんだ。

あたしが夢…の中で流した涙は、あたしが腕

を切って流れた…血のようだった。

あたしはただ…死ぬことで、奏から逃げたん

だ。

あたしは…弱虫だ。

自分が嫌。

でも…無理だった。

あたしは、もう傷つくのが嫌だったの。

結局は、自分が大切だったのかも。

…なんて、今頃気づいたって遅い。

あたしは、逃げたんだ。

現実から…

今さらかもしれないけど、あたしは、逃げた

くなるほどに、奏が好きだった。

さようなら。

あたし、悔いはないよ。

大好きでした、奏。

また会う時は、幸せな出会いだといいな。

…嘘。

今の出会いが、奏と幸せになれれば良かった

のに。

来世とか、次とか、その時は、もうあたしも

あたしじゃないし、奏も奏じゃない。

今のあなたと…幸せになりたかった。

最後にね…

もしかしたら、伝わるかもしれないから。


…好き…


口パクで、やっぱり声は出なかったけど、あ

たしは伝わったと思うから。

夢の中の奏も、現実の奏も…

「さようなら…」
< 192 / 307 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop