。*雨色恋愛【短編集】*。(完)

-皐月さん登場-

「なんで皐月さんがっ…」

あたしが髪を切って、男として生きると言っ

た、あの日から話してなかった。

集会とかで顔を合わせることはあっても、普

段は全く話さなくなっていた。

「碧ちゃん?」

みんなが、不思議そうに聞いている。

そうだよ…

いきなり、こんな怪物みたいに強い人が、あ

たしに話しかけてきて、“ちゃん”なんてつ

けて呼んでるんだもん。

せっかく、喧嘩も終わって、平和になるはず

だったのに…

「ほら、この子可愛いでしょ?ちゃんつけて

呼びたくなるんだよ」

にこっと、笑いかけながら話した皐月さんだ

けど、その笑顔は偽りで。

…怖い。

「…チッ。早くこの場から去れ」

龍さんがキレてる。

…珍しい。

いつも冷静なのに。

「てめぇは黙ってろ、ガキ。未成年は、黙っ

て保護者の言うことでも聞いてろ」

皐月さんは、龍さんに冷たく言った。

「皐月さんっ…本当に、なにしにきたんです

か?なんで、龍月のみんなを…」

皐月さん、そんな人じゃないのに。

「碧ちゃんを、救いにきたからだよ」

「なに言って…」

「碧ちゃんを助けられる。おいで?」

いつもの大好きな笑顔を向けて、あたしの手

を引っ張った。

「やっ…待ってください!!皐月さん!!」

歩いてたのを止めてくれた。

…ダメだ。

「龍さん、みんな、すいません。俺のせい…

です。倒れてるみんなの手当て、頼みますか

ら。また…来ますね」

「待て!!碧っ…」

龍さんに止められたけど、歩くしかない。

皐月さんに引かれて、ただ黙って歩く。

龍月の溜まり場を出て、皐月さんのバイクの

後ろに座らされる。

ヘルメットを渡されて、それを被る。

どこに行くんだろう。

なぜ、皐月さんは、あたしを迎えに来たんだ

ろう。

龍月を襲ったんだろう。

龍月を襲ったのに、幹部のみんなはそのまま

だったんだろう。

謎が多すぎるよ…

あたしは、皐月さんの腰に掴まった。

バイクに乗ってるんだし、掴まらないと危な

いから。

けど、皐月さんは、進む気配がなくて。

「皐月さん…?」

どうしたのか、顔を覗きこもうと思い、手を

離そうとした時、手を掴まれた。

あたしは、皐月さんの背中にピッタリくっつ

いてる状態になった。

「皐月さん?」

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